日本酒が安くてまずいというイメージが強かった時代は遠くなりました。今や,日本酒は日本を代表する文化であり,世界に誇れるおいしいお酒となりました。このコーナーでは,円盤に上手に乗るための燃料たる,良質の日本酒についての基礎をご説明したいと思います。(なお,内容に間違い等がありましたらメールにてご指摘下さいませ。)

日本酒の分類

 日本酒を大別すると普通酒と特定名称酒に分類されます。

普通酒 増量のために醸造用アルコールを加え,さらに味を調整するために調味液を加えた酒。
特定名称酒 以下の8種類に分類される
大吟醸酒,純米大吟醸酒,吟醸酒,純米吟醸酒,特別純米酒,純米酒,特別本醸造酒,本醸造酒

円盤に楽しく上手に乗るには,普通酒の利用は避けるべきでしょう。

特定名称酒の8種類について細かく説明します。

大吟醸酒 精米歩合50%以下で若干の醸造用アルコールを用いて味を調えてある酒
純米大吟醸酒 精米歩合50%以下で米だけで作った酒
吟醸酒 精米歩合60%以下で若干の醸造用アルコールを用いて味を調えてある吟醸造りの酒
純米吟醸酒 精米歩合60%以下で米だけで作った吟醸造りの酒
特別純米酒 精米歩合60%以下で米だけで作った酒
純米酒 精米歩合70%以下で米だけで作った酒
特別本醸造酒 精米歩合60%以下で醸造用アルコールを用いて味を調えてある酒
本醸造酒 精米歩合70%以下で醸造用アルコールを用いて味を調えてある酒

※精米歩合とは原料の米をどれだけ磨くかということ。米を磨くということは,当然米の中心部に近い部分を利用して酒を造るということであり,大吟醸酒では米の半分も使っていないということになります。最近の一部の大吟醸酒では精米歩合30%というのもあります。日本酒は贅沢なつくりとなっているんですね。

吟醸造り

吟醸酒とは,精米歩合60%以下で,かつ仕込み温度を10度以下にしてゆっくりと低温発酵させ30日以上かけて熟成させて造った酒のことです。この長期低温発酵により,吟醸酒独特の香りと味が生成される。なお,このような製法を吟醸造りといいます。

酒造好適米

 酒造用の米は,日頃食べている米とは違い,酒造用に特別に作られた品種がほとんどです。代表的なものは,山田錦,五百万石,美山錦,雄町などです。なお,新潟県三島郡和島村の久須美酒造は,幻の酒造好適米「亀の尾」をよみがえらせ,酒を造っています。

造り方による分類

 酒は造り方から3つに大別されます。日本酒,ビール,ワインなどの醸造酒,焼酎などの蒸留酒,その他の混合酒などです。醸造酒は発酵方法の違いにより,2つにわかれます。ワインのように原料が糖分を持つものと日本酒やビールのように原料が糖分を持たないものです。さらにビールと日本酒は発酵の方法が違います。ビールは,単行複発酵式といわれ,麦芽で糖分に変えてから酵母を加えて発酵させるという2行程をかけますが,日本酒はこの工程を同時に行う,併行複発酵式と呼ばれる方法に特徴があります。

日本酒の造り方

酒造りの工程を簡単に記載しておきます。

精米 米を磨いて,米の外側にある不要なタンパク質,脂肪を取り除く作業です。
洗米・浸漬 米を洗い,付着した糠を洗い落とすのが洗米。その後,必要な水分を米に吸わせるのが浸漬。洗米と浸漬は何回も繰り返されることがあります。
蒸米 米を蒸して,でんぷんを糖類に変化しやすくします。
麹造り 米のでんぷんを糖化させるための酵素を作る作業です。蒸米に種麹を振りかけ,麹米を造り麹菌を育成させます。
酒母(もと)造り 麹米と蒸米と水を混ぜ,酵母菌を加えてもろみを発酵させるのに必要な酵母を造ります。
仕込み もとに蒸米,麹米,水を加え発酵させる作業です。三回に分けて増量していく三段仕込みという方法が取られることがありますが,これは雑菌による汚染を防ぐ昔ながらの技術です。麹の酵素が蒸米のでんぷんを糖に変え,この糖をもとの酵母がアルコールに変えます。アルコールが含まれた酒のもとをもろみといいます。一つのタンク内でこれらが同時に行われるため併行複発酵式といわれます。
上槽 熟成したもろみを圧搾機にかけてしぼって,酒と酒粕に分けます。
滓びき(おりびき) しぼった酒のにごりを沈殿させて抜き取ります。
濾過 活性炭素により雑味や色を付着させ,濾過器に入れます。
火入れ(加熱) 酵素の働きを止めるための重要な作業です。生酒は火入れをしません。
熟成 一ヶ月から一年,あるいは数年タンクに入れて熟成させます。
出荷 瓶や樽に詰められて出荷されます。

酒造りは,もろみの品質を管理しやすく,雑菌の繁殖をおさえやすい冬の寒い時期に行われることが多い。これを寒造りといいます。

酵母

 前に述べたように,麹の酵素が造った糖をアルコールに変えるのが酵母の役割です。明治中頃までの酒造りでは,酒蔵の建物や床に自然に落ちてくる酵母(家付き酵母)を利用していましたが,そのために毎年性質が異なり,酒の品質も一定しないという問題がありました。そこで,明治40年から,日本醸造協会が,優良酵母を分離,培養し酒造りに利用するようになりました。
 協会1号は灘の「桜政宗」,協会2号は伏見の「月桂冠」でした。そして協会9号は熊本県酒造研究所の「香露」を分離培養したものですが,このいわゆる熊本酵母には,「香露」醸造元の熊本酒造研究所が販売しているものと,日本醸造協会で販売している協会9号との2つがあります。いずれも同じ酵母で,低温でよく発酵し,そのフルーティな芳香とまろやかな風味を醸すことから,吟醸酒や大吟醸において圧倒的なシェアを誇っています。熊本酒造研究所の「大吟醸香露」は幻の銘酒といわれるので一度は飲んでみたいものです。


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参考文献
 九州銘酒紀行 2000秋号(西日本新聞社編)
 夏子の酒 1巻〜6巻(講談社刊)

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